東京都は2024年夏をめどに、都有施設の太陽光発電設備や蓄電池をインターネットで一体管理する仮想発電所(VPP)を稼働する。東京電力ホールディングスと共同で余剰電力を統合して他の施設に供給する。発電にムラのある再生可能エネルギーの大量導入時代を見据え、率先して効率的な需給調整の仕組みづくりを目指す。
VPPは、電力の余っているところと電力を必要としているところをインターネット上でマッチングし需給調整する。発電量は太陽光パネルなどに接続した通信機器からパソコンなどに送信され、それを把握したうえで電線を通じて電力を送る。
第1弾として24年度、都営住宅数棟の太陽光パネルで発電した電力を東京都庭園美術館(東京・港)に供給する。25~26年度にかけては、都立学校や東電HDが新たに設置する発電設備など約30施設まで電力の需給場所を広げることを目指す。屋根に太陽光パネルが付いた駐車設備「ソーラーカーポート」の組み込みなども検討する。
発生する電力は各施設単位だと少量だが、電力系統を通じて束ねることで24時間稼働している施設や防災公園などで活用できる。稼働後は実際の発電量や需要量をもとに需給調整の精度を高める検証も実施する。公共施設を使ったVPPは全国で初めてとみられる。
電気は消費と発電を常に一致させる必要がある。管理しやすい大規模な発電所からのエネルギー供給では、電力会社は洗練した調整システムを持つ。一方、再エネ設備は発電量にムラがあるうえ、各地に分散しているので高い精度で調整するのは難しい。
再エネの導入が進むなか、VPPのような電力の需給を調整する仕組みの重要性は高まっている。再エネの発電能力を強化しても、調整が効かず消費の見込みがなければ無駄になる。送電線容量の不足などもあり、発電能力を消費に生かしきれないケースも目立つ。
全国では太陽光や風力の稼働を一時停止する「出力制御」が相次ぎ、23年は300回に迫った。東電管内でも一時は実施も取り沙汰された。満足に稼働できなければ企業は積極的な再エネ導入に二の足を踏みかねない。
VPPはまだシステムが十分に確立されておらず、一般企業にとって事業採算性を確保するのは容易ではない。都が率先して取り組むことで民間の参入を促す狙いがあり、小池百合子知事は「技術などが確立されていない今だからこそ、実装への道筋をつけていきたい」と行政の役割を強調する。
都はこれまで再エネ導入で様々な施策を打ってきた。25年度からは新築戸建て住宅への太陽光パネルの設置を義務化する。10億円を出資して再エネファンドも立ち上げた。都全体での再エネ電力の利用割合は21年度の20%から26年には30%程度に高める目標を掲げる。
都有施設では物理的に置けない場所などを除き、太陽光発電設置率を100%にすることを目指す。庁舎などへの太陽光発電の導入量は22年度に1万キロワットだったのを24年度までに2万キロワットまで増やす計画だ。
今回の都のVPP導入は実証の意味合いが大きいのも事実。ただ、エネルギーの最大消費地である東京で、住宅や学校、庁舎など多様な公共施設を使って検証に取り組む意義は大きい。都環境局は「再エネ大量導入時代に向けた仕組みづくりは行政の支援が欠かせない。需給調整のシステム整備に積極的に貢献していく」としている。